2005.5.21
別途報告する結婚式に備え、ビエンチャンでスーツを作りました。JICAの専門家としての仕事でも、正装が必要なことは意外に多くあります。以下、言葉が通じない中でスーツを作った日の奮闘記です。
2005.4.24
日曜、少し遅い昼食後、tailorの集まる地域に出かける。場所は、Samsenthai RoadとNamphu広場の間のPangkham Road。旅行者が集まる地域だが、ゲストハウスやみやげ物店よりtailor の数が多いような気がする。革靴の店もある。正装を整える場所なのかもしれない。
ここも下水工事中で道の左側にでかい溝ができている。時々それを渡りながら、まずひととおり全ての店の雰囲気を見てみる。コンクリ造りの建物の一階で営業している店が多いが、ちょっと大きめの小屋のような平屋の建物で営業している店もある。ショーウィンドウのある店は、少し高級感がある。日曜のためか、目をつけていたそうした高級そうな店が2軒ほど閉まっている。別の日にしようかと躊躇したが、仕事帰りに寄る手間も考え、まずは開いている店をチェックすることにした。
まず、Samsenthai Rd. から入ってすぐの店をチェック。誰もいない。子供達が奥でテレビを見ている。サバイディー(ラオス語のこんにちは)と声を上げると、若いお兄さんが出てくる。ラオス人の年齢はまだ識別できないが、20代前半のように思える。英語でいいですかと聞くと駄目で、テレビを見ていたもう一人のお兄さんが出てきた。こちらは10代後半か。耳にピアス、オールバックの髪にサングラスという、「ここが社会主義国ですか」パターンのいでたち。英語でいいですかと聞くと、少しなら、との返事。逆にフランス語は
OK かと聞かれ、これはこちらが手を振って No の返事。学生時代、勉強をサボったことを後悔する機会は、思わぬ所にゴロゴロある。とにかく、スーツ上下を造る値段を聞く。ピアスのお兄さんは、最初の20代前半風お兄さんに聞いている。どうやら彼がここのオーナー兼職人さんらしい。120ドルとの答え。材料費はと聞くと、込みとのこと。一軒目ということもあり、ここらでThank you といって引き上げる。ピアスのお兄さんから No Problem の返事。ラオスのお店で、引き止められることはほとんど無い。商売っ気がないと言えるが、買い物客は気楽。
2軒目。ベトナム南部主要都市の旧名がついた店。ベトナム人経営かと思いつつ入る。店の奥で、頑固オヤジ風の人がミシンを動かしている。これこそ私の求めていた雰囲気。英語でいいですかと聞くとやはり駄目で、これまた若目のお兄さんが出てきた。30代か。ここから、日本語―ラオス語辞典を片手に手を変え品を変えの珍問答が続く。お兄さんは、For you 50ドル、For me 70ドルの表現を繰り返す。なんのことやらさっぱり分からない。ついに、絵を書き出す。ジャケットとズボンの絵。ジャケットが70ドルでズボンが50かと思いきや、そうでもない。何度も聞き返し、やっと分かったのは、縫い代が50ドルということ。最初の繰り返しは。70からまけてやったということだったのだろう(I guess)。縫うのに3,4日かかるとのことだった。材料はタラート・サオ(いわゆるモーニングマーケット、ビエンチャン市内最大の市場)で買ってきてくれ、と言われる。私のサイズだと3 m必要とのこと。材料費は、50ドル、80ドル、ものによります、との至極もっともな解説。ここで売ってくれないのかと聞くと、No との返事。Tailor らしく、店の両脇の棚には巻かれた布が飾られているのに・・・。結局、良く分からないまま引き上げる。
3軒目、HU'O’NG Tailor。今の店の隣。平屋建てで、店の造りは少しみすぼらしい。上半身裸の頑固親父風の人が、作業台の横で本を読んでいる。本のせいか、知的な感じがする。英語でOKですか、と聞くとOKとのこと。スーツ上下の値段を聞く。答えは70ドル。材料費込み。ズボンが2枚欲しいのだがと言うと、15ドル余計にかかり、計85ドルとの返事。なんとなく今までの店より安めに感じる。日本でオーダーメイドしたズボンを見せ、この通りの物が出来ますかと聞くと、OKとのこと。ところでこのおじさん、ラオス語が通じない。ラオス語辞典のズボンの項目を見せると、I can't
understand Laoと言い、奥の女性を呼ぼうとしていた。後ほど判明したが、ご主人はベトナム人だった。先ほどの店の名前といい、ビエンチャンのtailor にはベトナム人が多いのかもしれない。完成までには3,4日かかるとのことだった。材料もいろいろ見せてもらう。主にタイ製のものとイタリア製のものがある。どれで頼んでも、値段は同じということ。なかなか感じが良かったので、内心ほぼここに決めてしまった。明日また伺うかもしれませんといって退出。
4軒目。これまた今の店の隣。ショーウインドウがあり、高級な感じ。入ると誰もいない。奥のドアの向こうに、昼寝をしている子供とその親らしき大人の姿が見える。さらにもう一つ奥のドアの向こうに、手持ちぶさたに座っている女性の姿。こちらにまったく気づかない。まあ、視力1.5超の私からは見えても、向こうからは見えないのかもしれない(ラオス人の平均視力はどれくらいなのだろう)。しばらく待ったが、何の動きもない。昼寝の子を起こすのは悪いと思い、そのまま出てきた(翌日寄ってスーツ上下の値段を確認すると、若いお姉さんが出てきて、100ドルとの返事だった)。
通りの反対側に渡り、Samsenthai Rd.方向に帰りだす。比較的大きな店が開いているが、店内でビール瓶を並べて酒盛りがはじまっている。ここはパス。
5軒目。Samsenthai Rd.のすぐ近く。表でお姉さんがバイクを洗っている。閉まっているのかと思ったが、とにかく入ってみる。ショーウィンドウはないが、布は壁のガラス棚に入っている。奥から50代ぐらいに見えるランニングシャツ姿のおじさんが出てきた。早速商談。背広上下、材料費込みで90ドル、余分のズボンは30ドルで計120ドルとのこと。腕は信頼できそうだが、なんとなく吹っかけられている気がする。後でより深く考えることにして、Thank you と言って退散。ここでPangkham Road内の店の探索は終わり。
出てすぐのSamsenthai Rd.の店も覗いてみる。位置は、Lao Plaza
Hotel の真向かい。小さい。店頭ではスナックやソフトドリンクも売っており、まともなtailor なのかといささか不安になる。出てきたのは60代後半ぐらいの男性。英語は少しならOKとのこと。背広上下の値段を聞く。80ドルとのこと。さらに聞くと、値段は材料次第ということが分かってくる。一番いい材料で作ると80ドル。一番下の材料で作ると70ドルとのことだった。横の棚の材料を確認していくと、それなら70、こちらなら80と即答してくれる。雰囲気としては一番まともそうな店だった。ただ、私のラオス語能力で、どれくらいデザインやサイズの好みを伝えられるかは疑問符。
値段考
下見は終え、意外に安いではないかと、内心ホッとしながら帰る。翌月曜、昼食時に職場の日本人の方々に下見の話をする。85ドルなら安いですよね、と聞くと、あっさりと高いです、吹っかけられていますね、との答え。ラオス人なら、50から60ドルが相場でしょうとのことだった。ここで、しばらく物の値段について考えた。日本のちょっと洒落たレストランで、まあまあの夕食をとれば一人3千円から4千円だろうか(慎ましやかでしょうか?)。5年ほど前に大奮発して作ったオーダーメイドの背広は、約20万円だった。その対夕食費比率は50倍となる。ここビエンチャンで外国人も入るやや高めの店で夕食を食べると、大体2万キープ。約2ドル。この50倍は100ドルとなり、多くの店での言い値となる。つまり私は、ラオスで20万円相当の背広を注文しようとしていることになる。
別の見方として、ラオス人にとってのお金の価値は、日本円表記の約20倍との意見がある。6千キープ、約60円の昼食費は、ラオス人の感覚では1200円相当の負担感とのこと。3軒目の言い値の85ドル、約9千円の背広は、ラオス人の感覚からすると18万円相当ということになる。日本でも、18ー20万の背広は、まさに清水の舞台から飛び降りるような買い物である。こう考えると、一番高めの値段を提示されてますね、という意見ももっともらしい。
注文
結局、翌日に3軒目の店、HU'O’NG Tailorで注文した。注文前に、5ドルまけて80ドルにしてくれ、とお願いしてみた。ご主人はちょっと渋い顔をしたが、あっさりOK。まあ最初ということもあり、ここらで満足する。
布選び。思い切って白めのグレーや緑も考えたが、汚れやすいかといささか怯む。涼しいもの、薄いものが欲しいというと、店主は2種類の布を薦めてきた。思いっきり薄いタイ製の布と、それよりはやや厚めのイタリア製の布。タイ製は涼しそうだが、かなりのダークブルー。イタリア製もブルーだがやや明るめのブルー。店主の薦めと色の好みでイタリア製の布で注文した。その後、デザイン選び。中国語の見本誌のようなものを見せられる。2ボタンか3ボタンか。保守的な私はついつい2ボタンを選択。ジャケット後ろの切れ目をどうするか、ジャケットの腕から下を少し細めにするかどうかの質問もあり。大体、薦められるままに選択。その後、計測。メジャーでザッザッと計っていく。ノートに大体8個ぐらいの数字を記して終わり。
店の名刺の裏に選んだ布の切れ端をホッチキスで留め、1 suits(上下)、 1 pantsという注文内容、それに値段、受け渡し予定日(4月30日)を書いて渡してくれる。さて後は出来てのお楽しみ。
完成
5月1日、メーデーの日曜日に完成したスーツを受け取る。見た目の美しさ、ズボンの1タック、2タックの違いなど完璧。ほれぼれする。日本から持ってきたオーダーメードの背広のズボンと比較しても、遜色ない。ビエンチャンで服を作るとろくなものが出来ない、という人も多かったが、この店に関しては誤りと断言できる。できるとやはり着てみたくなるもので、JICAオフィスでの予算交渉を皮切りに、あちこちで着ている。しかし、やはりスーツの上を着ると暑い。ある日本人女性にこぼすと、「おしゃれは忍耐です」とのありがたい一言を頂いた。
(あくまでもスーツの写真です)